ロードバイク競技に於いてスピードというと、短距離選手やロードバイクスプリントにとって非常に大事な「トップスピード」と、中距離選手やロードTTを得意にする選手に重要な「アベレージスピード」だと考えています。

この2つは同じ「スピード」と言う表現を使っていますが、トレーニング要素の上達度はかなり違ってきますので、ますはそこの違いからお話ししたいと思います。


トップスピードを上げる方法

高いトップスピードを得るために考えなくてはならないのは絶対的な筋力です。

スピードを出すためにはある程度以上のギアを踏んで、さらに一定以上のケイデンスを保たなくてはならないので、一般的にいうパワー(トルク×ケイデンス)が重要になってきます。クランクを廻すトルクはペダルを踏み込む力ですから、絶対的な筋力がトップスピードに影響する事はだれも異論がないと思います。しかしここで問題になるのは「どの筋力が重要なのか!? 」と言う事です。

スプリント力を高める為には脚の筋力を高め、その力を発揮するための全身のスタビリティーを高める必要があると言う事はこれまで何度もお話ししてきたと思います。腰を上げ最大トルクをペダルに対してかけるのですから想像に容易いと思います。

しかし、スピードとなるとそれに加えて高いケイデンスを要求されることになります。シッティングポジションに移行して高いトルクを発揮しつつ高いケイデンスを保つためには、ダッシュ力のトレーニングとは少し目先を変えなくてはなりません。

スプリント時において急激な加速を可能にするのは、膝関節を伸展させる大腿四頭筋の力によるところが多く、それ以外の筋力は補助的に動くか、そのペダリング動作を安定させる為に働きます。これは関節の稼働角との兼ね合いが強く、ペダルに対して加重をかけるもう1つの関節である股関節は、ダンシングポジションでは稼働角が広すぎるためあまり大きな力を発揮する事が出来ないためです。

それに対してトップスピードを発揮するシッティングポジションでは、股関節の稼働角は狭くなり十分力を発揮出来る状態になります。一方膝関節は、一定の稼働角まで広がった状態からは力を発揮しやすくなりますが、ペダルが上死点付近から3時(クランクが水平になる辺りまで)位までは力が発揮しにくい状態にあります。

これらの事からトップスピードを上げるためには膝関節を伸展させる大腿四頭筋はもちろんですが、股関節を伸展させる大殿筋及びハムストリングスの強化が特に重要になってきます。


アベレージスピードを上げる方法

アベレージスピードを上げるために考えなくてはならないのは、筋肉に対する酸素の供給能力、つまり持久力と言う事になります。トップスピードを強化する事と同様に筋力の強化は必要ですが、その強化した筋力を使い続けられるように酸素を十分に供給出来る能力が重要になって来ます。

筋肉にはトルクを出しやすい速筋繊維(FG繊維/FOG繊維)と、持久力を発揮する遅筋繊維(SO繊維)の2種類(正確には3種類)があります。

速筋繊維はトレーニングによって筋繊維が肥大し(太くなる)収縮力が強くなって行きます。筋力が強くなると言う事です。

それに対して遅筋線維はトレーニングをしても筋繊維は太くはなりませんが、酸素の供給力が高まり、酸化能力(エネルギーを作る能力)を高める事が出来ます。

ロードバイクで高いスピードを維持する為には、空気抵抗や路面抵抗などの走行抵抗に負けないパワーを出し続ける必要があります。当然速筋繊維を高い割合で稼働させなくてはなりません。

速筋繊維は糖質(グルコース)を分解してエネルギーを得ますが、分解した後に残るピルビン酸や乳酸は遅筋繊維のエネルギーを作り出す材料として再利用されることになります。遅筋線維はピルビン酸や乳酸を酸化(酸素を使って燃やすような化学的反応)させることでエネルギーを作り出します。

問題は、高いパワーを発揮するために速筋繊維をフル稼働した場合、そこで作り出されるピルビン酸や乳酸が増加して筋肉は酸性に傾いてしまうことです。もちろん、遅筋繊維がピルビン酸や乳酸をエネルギー源として消費してくれれば問題は無いのですが、その酸化能力が低ければ筋肉は徐々に酸性に傾いて行きます。

速筋繊維でエネルギーを作り出す酵素は酸性に弱く、ある一定の酸性度に達すると急激にエネルギーを作れなくなってしまいます。つまりパワーが一気に低下してしまうと言う事です。

アベレージスピードを高める為には、走行抵抗に負けないパワーを生む速筋繊維を強化すると同時に、そこで発生するピルビン酸・乳酸を遅筋繊維でしっかりと酸化するために酸素の供給能力を高める事が重要です。

トップスピードやアベレージスピードを上達させる事を目的にトレーニングメニューを作成する場合は、それぞれの強化ポイントを理解した上で作成する必要があります。


スタンディング400m/600m ステアーライン

このトレーニングは、ダッシュからトップスピードに移行するまでの一連の動きを習得すると同時に、シッティングポジションに移行してから重要になる股関節伸展(大殿筋・ハムストリングス)の強化を意識したトレーニングです。

 
・ギアの設定 : 筋肉に負荷をかける事を目的としているため、やや重めのギアをかけて行います。1000mTTや500mTTを行う時と同程度のギアを設定する事が多い。
 
・距離の設定 : シッティングトルクを重視する場合は400m、スピード持久を重視する場合は600mで行う。
 
・インターバルの設定 : 筋力的にも体力的にも負荷の高いトレーニングとなるので、複数本行う場合には15分から20分程度の休憩をとる。
 
・トレーニング方法 : 静止状態、もしくはウォークアップ(歩く程度の速さ)でホーム線からスタートしスプリンターレーンを走行。2コーナーを抜けてシッティングポジションに移行した所からバックストレッチでステアーラインまで斜行、3コーナー入り口から4コーナー出口までステアーライン上を走行した後、4コーナー出口から再びスプリンターレーンに戻る。400mの場合ホーム線でゴールし、600mの場合そのままスプリンターレーンを走りバック線でゴールする。


フライング1000m(半周-半周-1周半)

このトレーニングはシッティングポジションで股関節伸展の出力を強化すると同時に、筋持久力を強化する事を目的に行うトレーニングです。
 
・ギアの設定 : スピードと同時に筋持久力を目的とするトレーニングの為、通常のトレーニングギアで行う。(あまり負荷をかけない)
 
・距離の設定 : 3名で行う場合1000m、2名で行う場合は800mで行う。
 
・インターバルの設定 : 運動強度の高いトレーニングの為15分から20分程度の休憩をとりレペテーションで行う。
 
・トレーニング方法 : フライングスタートでバンク上段よりダッシュし、第1走者は半周(200m)でチームスプリントの様に外側に離脱する。その後第2走者も半周(200m)を走った後離脱し、第3走者がゴールまで600mを単走で走りきる第3走者の為のトレーニング。15分から20分程度の休憩をはさんで走順を入れ替えながら3セット行う。

ダンシングポジションでのダッシュは大腿四頭筋を中心とした筋出力で加速するが、その後シッティングポジションに移った後にも筋力に勝る大腿四頭筋から筋力の劣る大殿筋・ハムストリングスに出力を切り替えることは難しい。

そこでペースメーカー(前走者)を追走することでドラフティング効果を利用し、少ない出力で走行できる状況を作りだし筋出力を大殿筋・ハムストリングスに切り替え、単走に移った後にも大殿筋・ハムストリングスによる股関節伸展出力を意識して走る。

スピードを強化するトレーニングメニューはこれ以外にも沢山の種類があります。一般的に多く取り入れられているのは、チームパーシュートの様にフライングダッシュから先頭交代を行いながらスピードを保つトレーニングや、単走でもフライングダッシュからもがく方法など様々なトレーニングが行われていると思います。

今回紹介した2つも一般的に行われているトレーニングを少し変化させただけのありきたりなものです。スタンディングスタートからの400mは後半ステアーラインまで上るだけ、フライングのもがきは一般的に「ロケット」と呼ばれているものの3番手の距離を長くしただけです。

しかし、何処の筋肉、何処の関節の稼働を意識するかによってトレーニング効果は変わってきます。どんなトレーニングにも言えることですが、トレーニングの目的と効果をしっかりと意識することで、身体に対する刺激の入り方も違ってきます。

効果的なトレーニングを行う為には、ただメニューを取り入れるだけでなく、トレーニングの目的もしっかり理解して行うよう取り組んで見てください。